2021年4月1日より学長に就任いたしました。これまで四国学院大学社会福祉学部において、主に精神保健福祉の分野、とりわけ精神障害者の地域生活支援と福祉政策に関する領域を専攻し、またそれらに関連する活動として、障害者就労支援事業所の運営や公立高校でのスクールソーシャルワークを実践してきました。今後は、これらの経験を本学の教育の充実に活かし、地域の福祉に貢献できる人材の育成に尽力して参りたいと考えます。
さて、人類はその誕生と同時に、傷病や老いに苦しみ、そしてそれを癒すための科学的な方法として医学を発展させてきました。しかし、実際に人類が最初に行なったのは、医学による治療ではなく、痛む部位をさすったり、背中を撫でて寝かしつけたり、傍らでその苦しみに耳を傾けたり、あるいは歩く際の手助けをする等の介護(看護)行為でした。つまり介護は、人間の生活の営みのなかで自然派生的に行なわれ、またそれらは身近にいる人、主に家族を中心に行なわれてきました。現在のような専門的な知識や技術を持たないまま、愛情と経験、地域社会の慣習に基づいて手探りで行なわれてきたものです。
一方、現代を生きる私たちは、介護福祉を学ぶにあたり実証されたありとあらゆる知識や情報を手に取ることが可能です。また、技術や情報を加工し、より科学的に介護を実践する方策を探求することも容易になりました。その出発点は、介護保険制度の成立による介護の社会化、脱家族化です。介護保険制度は、それまでの女性を中心に家庭内で行なわれてきた「見えない介護」と「不払い労働」からの脱却を促進し、介護の専門性や技能、知識を「介護サービス」という準市場化のサービス商品に変換させました。これらは専門家からは社会福祉の準市場化として批評される一方、報酬に見合うサービスを提供する専門職の必要性を広く社会に認識させる結果にもなりました。そしてそうであるならば、問われなければならないのは、どのような価値観や理念、技術を有した介護専門職を養成するのかということだと思います。
単に方法としての介護を学べば、誰もが支援者としてふさわしい介護福祉士になれるかというとそうではありません。本学においては、報酬とサービスの等価交換による介護の商品化に手を貸すことなく、母親のように慈しみ、友人のように傍らに寄り添い、そして同時に専門職としての倫理観や技能をもって「その人」に向き合うことができる介護福祉士を育てて参ります。
今後とも、ご支援、ご協力の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
四国学院大学専門学校
学 長 西谷 清美